怪奇現象
昨日のホテルでの出来事を書いていて、あることを思い出しました。
以前、私には霊能力がなく、霊を見たこともないと書きましたが、一度だけそれらしき現象に遭ったことがあるのです。
それは、東京の新宿にあるホテルでのことでした。
その頃は、得意先の近くにあるホテルを定宿にしており、フロントの従業員とも顔見知りになっていました。
ある日、急に宿泊することになり、予約をせずにホテルへ向かったのですが、あいにく満室とのことでした。
ただ、フロント係が、
『ちょっと狭いのですが、その部屋で宜しければ、半額の料金で結構です』
と言ったので、私は一も二もなく了承しました。どうせ、一晩だけですから、少々狭くても料金が半額なら・・・・と思ったのです。
確かに、その部屋は変わっていました。普通?というか、部屋は廊下を挟んで両側に設計されていると思うのですが、その部屋は廊下の突き当たりにあったのです。通常であれば、非常階段がある場所です。
確かにいつもの部屋より狭かったのですが、不自由というほどでもありませんでした。
その夜も六本木で飲食し、ホテルの部屋に戻ったのは0時過ぎだったと思います。シャワーを浴びて、ベッドに入り、ビールを片手にテレビを見ていたのですが、いつの間にかウトウトとしていました。
そのときです。
『ドンドン、ドンドン』
と、扉を叩く音がして、目が覚めたのですが、男性の声で、何か喚いているのです。
英語ではありませんでした。フランス語でもドイツ語でもなく、中国語でも韓国語でもありませんでした。中東のアラビア語か、アフリカの諸国のどこかの言語のようでした。
時計を見ると、1時過ぎでした。
私は知人の部屋を間違えているのだと思い、扉の前に立って、日本語で、
『何ですか?』
と言いました。日本語が通じるかどうかは不明でしたが、とにかく声を聞かせれば、間違いだと気付くと思ったのです。
ところが、外からの反応がないので、というより何となく、外に人がいる気配がなかったので、覗き穴から外を探ると、やはり誰もいませんでした。部屋は廊下のどん突きにあるわけですから、外はかなり遠くまで見渡せたのですが、人の姿は全くありませんでした。
私は、
『どこかの部屋に入ったのだろう』
と思い、ベッドに戻り、眠りに戻りました。
すると、再び、
『ドンドン、ドンドン』
と、扉を叩く音がして、また目が覚めました。そして、やはり理解不能の言葉を喚く声が聞こえました。
私は、
『近くの部屋の誰かが、悪戯しようとして部屋を間違えているのだ』
と思い、フロントに電話して事情を話し、
『このフロアーに外国人は宿泊していないか』
と、訊ねました。
ところが、どうもフロント係の歯切れが悪いのです。戸惑いを見せているような、言い訳をしているような・・・・。
しかし、それ以上フロント係を問い詰めても、どうにもならないので、そこで受話器を置きましたが、しばらくすると、今度はフロント係がやって来て、
『部屋を用意しました』
と言うのです。
『確か、満席だったはずでは?』
そう聞き返すと、
『スイート・ルームをお使い下さい』
と神妙な顔付きなのです。
時間を確認すると、3時近くになっていましたので、いまさら部屋を移っても、朝まで4時間ほどの滞在です。
『結構です』
と、私は断りました。
その後は何もなかったのですが、後々になって考えてみたとき、あれは霊現象ではなかったのか、という思いに至ったのです。
その場で、気付いていれば、迷うことなく部屋を移っていたでしょうね。