マドンナ・大学編・その2

およそ、客商売が成り立つ場所ではないところで、人気を博しているということは、とりもなおさず、居候・Yが興奮気味に言った、
『もの凄く可愛い女性』
というのは、まんざら嘘でもないことの証明であり、さすがの私も少なからず興味を持ちました。
加えて、両親にとても大切に育てられた、いわゆる『箱入り娘』らしく、客商売を手伝っているのにも拘らず、『すれた』ところが全く無いのだそうです。

また、大阪・梅田辺りを歩いていると、毎回必ず声を掛けられるというのです。ナンパではありません。芸能事務所のスカウトなのだそうです。東京の渋谷や原宿なら分かるのですが、大阪でもアイドルをスカウティングするのだろうか、と思いながら、居候・Yに続いて店の中に入りました。

すぐ目に入ったのが、カウンターの向こうにいた二人の女性でした。一人は中年の女性で、彼女がママだと分かりました。そしてもう一人の若い女性は、とても可愛い子で、今のタレントで言いますと、報道ステーションのスポーツコーナーを担当としている『宇賀なつみ』に良く似ていました。(彼女はアナウンサーですが・・・・)
ただ、何となく私は、
『この女性ではないな』
と思いました。居候・Yから聞いていたイメージと合致しなかったからです。

店は大きくはありませんでした。
カウンターに5席と、四人掛けテーブルが2つ、二人掛けテーブルが3つだったと記憶しています。
私たちは、カウンター席に座ることにしたのですが、私が一番左端の椅子に座ろうとした瞬間、若い女性が、
『あっ』
と、小さな悲鳴のような声を上げました。と同時に、私は背に冷たい視線を感じました。
どうらや特別な席らしく、私などが、つまり初めて訪れたような奴が座る席ではなかったらしいのです。

私は、何となく感付きましたが、
『二度と来ることはない』
と思っていましたから、気兼ねすることなくその椅子に座りました。居候・Yはコーヒーを、私はママが薦めたミックスジュースを注文しました。
ママが材料の果物をカットしはじめたときでした。ツカツカ、という足音がしたかと思うと、カウンターの奥の扉が開いて、若い女性が入って来ました。
転瞬、一閃の涼風が吹き抜けたような、店内のルックスが上がったような、辺りが実にさわやかで華やかな雰囲気に包まれました。

『あっ』
と、私は思わず息を呑みました。幼児の頃に出会い、小学校の高学年から思いを寄せ、高校時代に交際をしていたM・H、大親友・Yとの仲を取り持った名家のお嬢様、M・H(偶然、イニシャルが同じでした)と、身近に美女を見てきましたが、目の前の彼女は二人とはちょっと異質な感じでした。

美人ということで言えば、二人の方が整った顔立ちの美人でしたが、目の前の彼女は、非常に愛くるしく、涼やかな透明感がありました。顔立ちはちょっと違いますが、全体の雰囲気は女優の『本仮屋ユイカ』の感じでした。

『これは、男は参るなあ』
率直な私の感想でした。居候・Yが、躍起になって口説こうとしているのも理解できました。そして、居候・Yは彼女に断られたため、宇賀なつみ似の彼女と私を含めて、グループ交際から始め、そのうちに活路を見出そうと画策しているのだということも察しました。

『私がミックスジュースを作ろうかな』
彼女はそう言って、ママと作業を交代しました。そのとき、再び背中に鋭い視線を感じたことから、よほどの常連でないと、彼女がミックスジュースを作ることはないのだ、ということも察せられました。

彼女がミックスジュースを作っている間に、居候・Yがそれぞれを紹介し、彼女の名はK・U、もう一人の若い女性は、姓は忘れましたが、名はT子とわかりました。K・Uとママは母娘です。

初めは、特にどうこうという会話もなかったのですが、ふと居候・Yが、私が大金を持っていると、口を滑らしました。
まあ、大学生の分際で、風呂、トイレ付きの2DK、しかも新築に住んでいるのですから、居候・Yが話さなくても、いずれその話題になったでしょうが、そこからママが私の素性に興味を持ち、あれやこれやと問い質すような感じになりました。

もう二度と来ない、という私の気持ちに変化はなく、ただ鬱陶しいだけの質問でしたから、適当に答えていました。むろん、私が高僧である師に師事していることなど、億尾にも出しませんでした。

その場は、適当に誤魔化して終わったのですが、数日後、突然ママから店に来て欲しいという電話がありました。もちろん、私は電話番号を教えていませんでしたが、居候・Yが勝手に教えていたのです。居候・Yという男は、そういう奴で、たとえママから聞かれたとしても、所有者である私に伺いを立ててから答えるのが筋で、彼はそういう道理も弁えぬ男でした。

ともかく、私が指定された時間に赴くと、要件とは法学部の学生である私を見込んだ法律相談でした。
詳細は忘れましたが、確か敷地の境界線に関するトラブルだったと記憶しています。それほど、難解な事案ではなく、簡単にアドバイスをし、それが役になったのかどうかは分かりませんが、無事解決したようでした。

当然、それ以降私が店に出向くことはありませんでした。ですが、再びママからの電話があり、もう一度相談に乗って欲しいというのです。
正直に言って、私も忙しい身でしたし、厄介な相談をされると面倒だと思い、何度も断ったのですが、受話器越しにママの必死の様子が伝わり、とうとう再び店を訪れてしまいました。

すると、悪い予感が的中しました。前回とは比べようも無い難題を持ち掛けられたのです。

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