テロとのニア遭遇

今から二十年近くも昔、私は『スリランカ』に旅行したことがあります。年配の方には『セイロン』と言った方が聞きなれているでしょうか。

遊びの旅行ではなく、実は師の所属する宗派の法主が、スリランカ政府より国賓待遇での招待を受けたため、法主の代理で外遊した総務に、師も随行することになり、ついでに私も同行したというわけなのです。
なぜ、国賓として招待されたかと言いますと、宗派がスリランカの教育発展に寄与したからです。具体的に言いますと、幾つかの小中一貫の教育施設を建設、寄贈したのです。その御礼のため、招待されたということなのです。

師と師の関係者は、このプロジェクトに多額の資金を援助していたため、法主の計らいで随行員に選ばれたのです。
私が師に同行したように、他にも一般信者が数名参加していました。むろん、私たちは自費でしたが、行動は国賓訪問団と共にしていましたので、公式行事はもちろん、観光での移動の際には、常にパトカーの先導があり、兵士が護衛として付いていました。
自由観光した一日は、さすがに先導も護衛もありませんでしたが、我々が日本人だと分かると、とても好意的に接してくれたのを記憶しています。

歓迎パレードもあり、小学生から大人たちまで、鼓笛隊やダンスなど、130を超える様々なチームが、私たち来訪団の前を、パフォーマンスをしながら通り過ぎて行きました。
彼らは、学校の建設中の広い敷地に順次整列して行き、最後に私たちの到着を拍手で迎えてくれました。
ただ、パレードの中に、象の一団も含まれていましたので、道のあちこちに小さなバケツのような『フン(糞)』が落ちており、皆悲鳴とも笑いともつかぬ声を上げながら、避けていたのを思い出します。

宿泊ホテルは、おそらく当時のスリランカでは一番に高級だったであろう、『ヒルトン』だったのですが、毎晩そのメインホールで、いわゆる『晩餐会』や『歓迎会』のような食事会が催されました。
観光もしましたが、失礼ながら貧しい国ですので、取り立てて珍しいというものはありませんでした。
ただ一つだけ、ホテルの部屋から観た、インド洋の水平線の彼方に沈む夕陽は絶景でした。

さて、最終日には大統領に謁見する予定だったのですが、当日になると、面会場所が三度変更され、時間も二度変更されました。
謁見の後で、スリランカ政府側から説明されたのですが、この頃スリランカでは民族対立が激化しており、テロへの危機管理から大統領の行動は、トップシークレットだったのです。

テロと聞いても、そのときは、ただ、
『ああ、そうか』
と、漠然と聞き流していましたが、帰国してから半年後です。
NHKのニュースを見て、背筋が凍るような恐怖を感じました。私たちが面会した大統領が暗殺されたのです。
しかも、犯人は大統領の護衛担当という側近だというのです。つまり、私たちが面会したあのとき、同じ場所にいた可能性が高く、爆発物を身体に巻いた自爆テロだということですから、もしテロリストがあの面会時に暗殺を実行していたら、間違いなく私も巻き添えを食らって、死んでいたことでしょう。

それもさることながら、面会時の緊迫した空気を察することなく、たた不満に思った私が、どの面下げて平和ボケした日本人を叱責することができようか、と自問自答する毎日です。

最後に余談が一つ。
スリランカから帰国の途に着こうとしたときです。航空会社側なのか、旅行会社側なのかはわかりせんが、ともかく手違いがあり、客席が3つ足らないという事態が起こりました。
そこで、担当者が次の便で帰国しても良いという者を募ったのですが、誰も手を挙げなかったので、私と妻の二人が申し出ました。すると、残る一人は、私の師が手を挙げられたのです。
私たちはともかく、師は国賓ですから、担当者は大変に恐縮し、自分が代わると師を説得したのですが、師は私たち夫婦と共に帰国の途に着きたいと譲られませんでした。
結局、師と私たち夫婦は、空港近くのホテルでもう一泊することになったのですが、皆の見送りを済ませ、空港から出ようとした、まさにそのときでした。

担当者が、必死に走って来て、席が確保できたというのです。
思わぬ成り行きに、私たちが急いで飛行機に乗り込むと、何とそこはファーストクラスでした。
おそらく、航空会社はキャンセル待ちをしていたのでしょうが、無かったため、ファーストクラスを解放したのでしょう。むろん、私たちが国賓及びその随行員だということも考慮されたと思います。

経緯は経緯として、一応ファーストクラスですから、待遇は正規の料金を支払った客と同様でした。
善行はしてみるものですね。世の中は神も仏もいるということでしょうか。

Copyright © All Rights Reserved · Green Hope Theme by Sivan & schiy · Proudly powered by WordPress